行列同士を掛け算したらどのような結果になるのでしょうか?
ただ単純に各成分同士を掛け算だけでは行列の積は計算できません.
じつは行列同士の掛け算は独特の計算が行われます.
では,その計算とはどんなものでしょうか?
ここでは,行列の積の計算を行えることができるようになることを目標に見ていきましょう.
行列の積
冒頭にも話しましたが行列の積には独特の演算が行われます.
早速その演算を定義しましょう!!
行列の積
この定義を見て
なるほど!そういうことか!
となる人はおそらく少ないかと思います.
この定義については具体例を使って説明したほうがわかりやすいので
例を使って説明していくことにします.
まず、実際に2×2型行列の積をやっていてからこの定義を考察していくことにします.
例:2×2型行列の積
定義通りに\(AB\)の\( (i,j) \)成分を\( (c_{ij}) \)として実際に\( c_{11} \)から考えていくことにしましょう.
定義どおりに計算を行うと
\(c_{11} = a_{11}b_{11} + a_{12}a_{21} \)
\(c_{12} = a_{11}b_{12} + a_{12}a_{22} \)
\(c_{21} = a_{21}b_{11} + a_{22}a_{21} \)
\(c_{22} = a_{21}b_{12} + a_{22}a_{22} \)
となります.
このことを図を用いて考察をしていきます.
行列の積を考えるうえで重要なのは
左側の行列は行に注目
右側の行列は列に注目するということです.
「行列」という漢字の順で意識することです
その意識を持ったまま以下の図をみてみましょう.
どうでしょうか?
この図から行と列の掛け算が順に行われているように見えるのではないでしょうか.
このように行と列を意識して計算を行えば今は2×2型行列より大きなサイズの行列であっても問題なく計算可能です.
では、具体的に2×2型行列よりも大きな行列について行列の積を見ていきましょう.
\( (l,m) \)型行列\( A \)と\( (m,n) \)型行列\( B \)を実際に書き出してみると
全ての行と列について積を行うわけにいかないので、
今回は\(AB \)の\( (i,j) \)成分\( c_{ij} \)について積の演算を行いたいと思います.
先ほどの2×2型行列を参考にして同じように計算を行ってみると
下図のように導かれます.
この\( c_{ij} \)は間違いなく,行列の積で定義した\( c_{ij} \)です!!
任意の大きさであっても2×2型の行列の積が大きなサイズで拡張されただけですので,同じように考えれば積は求まります.
このように行列の積は行と列を意識すると良いです.
ここで、1つ注意したいポイントを挙げます.
ここまでの話から、
積を行う際、左側の行列の行数と右側の行列の列数が一致していなければ計算ができません.実際に\( (l,m) \)型行列\( A \)と\( (m,n) \)型行列Bの二つについて積を行っていますね.
これを見ると、Aの行とBの列の大きさがmという同じ大きさに一致していることがわかります.
大きさを合わせないと行列の積の計算が破綻してしまいますので大きさは注意しましょう.
それでは、実際に2問計算して行列の積について慣れていきましょう.
問:行列の積
ゆっくりでいいので行と列をしっかり意識して書いていくことでどんどん計算のペースも早くなっていきます.
慣れないうちは計算ミスなども起きると思いますが慣れてしまえばなんてことありませんよ.
行列の積の演算
次に,行列の和とスカラー倍の演算のように
行列の積に関しても様々な演算が成り立ちます.
それについても定理としてみていきたいと思います!!
まず,行列の積の演算の定理で使うため為に行列でいうところの”1”である
単位行列という行列を定義しておきます.
単位行列
\( E \)の定義の中にある大きな” 0 “はそれを書いた部分はすべて” 0 “であることを表すと考えてください.
すなわち、この場合は対角成分が全て1でそれ以外は0をあらわしています.
この書き方は成分表示の省略として使いますので覚えておいてください.
それでは、この単位行列もつかって行列の積に関する定理をいくつか紹介します.
定理:行列の積の演算
定理の証明はこちら
この定理の中で一つ注意してほしいのが「演算は全て定義されているものとする」ということです.
これは、行列の積を定義した際にAの行とBの列の大きさが同じ大きさに一致していることが必要であることを注意しましたね.
このようにそもそも演算の成り立たない形については考えないということを述べています.
以上が積の演算で成り立つ基本的な性質です.
基本的には実数や複素数の積で成り立つようなものばかりです.
ですが行列では実数や複素数では成り立たないような注意したい積の演算がありますので,
ここからは、それについてみていきましょう.
注意したい行列の積の演算
(注意1)について
行列の積に関しては必ずしもAB=BAは成り立つわけではありません.
逆に言うと\( AB \neq BA \)となるような行列\(A,B \)が存在することがあります.
すなわち、行列の積は演算の順番で結果が変わることがあります.
このように\( AB = BA \)となる場合を行列\(A,B\)は可換であるといい,
\( AB \neq BA \)となる場合を行列\(A,B\)は非可換であるといいます.
(注意2)について
言い換えると\( A \neq O,B \neq O \)であっても\( AB = O\)となるような積\( AB \)が存在します.
いままで数の演算では0を掛け算しなければ積の結果が0になることはありませんでしたが
行列では0以外のものの積であっても計算した結果が0になるといっています.
この二点の注意点に関して実際に例で確かめてみます.
この注意点はしっかり覚えておくとよいでしょう.
それではまとめに入ります!