「ベクトル空間とは?」では,ベクトル空間という今まで幾何的にみていたベクトルを抽象的にとらえていくことをしていこうと思います.
ベクトル空間とは
ベクトル空間とは
ベクトル空間
\( V \)がベクトル空間であるとは
以下の和とスカラー倍に関する性質とそれらに関する8つの条件を満たすことである。
(和に関する性質)
\( V \)に関する任意の元\( \mathbf{v,u} \)に対して
\( {\mathbf{v} + \mathbf{u} \in V} \)
が成り立つ。
(スカラー倍に関する性質)
\( V \)に関する任意の元\( \mathbf{v} \)と\( K \)の任意の元\( c \)に対して
\( {k \mathbf{v} \in V} \)
が成りたつ。
(和とスカラー倍に関する条件)
・和に関する条件
\( \mathbf{u,v,w} \in V \)とする。このとき和に関する以下の4条件を定める
(ⅰ)\( {\mathbf{v} + \mathbf{w} = \mathbf{w} + \mathbf{v}} \):和に関する交換法則
(ⅱ)\( {(\mathbf{u} + \mathbf{v}) + \mathbf{w} = \mathbf{u} + (\mathbf{v} + \mathbf{w})} \):和に関する結合法則
(ⅲ)\( {\mathbf{v} + \mathbf{0} = \mathbf{0} + \mathbf{v}} \):ゼロベクトルの存在
(ⅳ)\( {\mathbf{v} + \mathbf{x} = \mathbf{x} + \mathbf{v}} \)を満たす\( V \)の元\( \mathbf{x} \)がただ一つ存在する:逆元の存在
・スカラー倍に関する条件
\( \mathbf{v,w} \in V \)と\( k,l \in \mathbb{R} \)とする。
このときスカラー倍に関する以下の4条件を定める
(ⅴ)\( {k \cdot (\mathbf{v} + \mathbf{w}) = k \cdot \mathbf{v} + k \cdot \mathbf{w}} \):スカラー倍に関する分配法則
(ⅵ)\( {(k + l) \cdot \mathbf{v} = k \cdot \mathbf{v} + l \cdot \mathbf{v}} \):スカラー倍に関する分配法則
(ⅶ)\( {(kl) \cdot \mathbf{v} = k \cdot (l \cdot \mathbf{v})} \):スカラー倍に関する結合法則
(ⅷ)\( {1 \cdot \mathbf{v} = \mathbf{v}} \)\( {1 \cdot \mathbf{v} = \mathbf{v}} \)
また、ベクトル空間\( V \)の各要素をVのベクトルという.
定義がすごく多くてまいっちゃいそうですね…
ですが、実は1つ1つよく見てみると実数の時にあたり前に行ってきた演算がベクトルに対しても成り立つといっているにすぎません.なので,あまり難しいと感じる必要はありません.
ベクトル空間となる例を一つ挙げておきましょう.
例:数ベクトル空間
実数を成分とするn項列ベクトル全体\( \mathbb{R}^n \)
\( \mathbb{R}^n =\left\{ \begin{pmatrix} a_1
\\a_2
\\ \vdots
\\a_n \end{pmatrix} | a_1,a_2, \cdots,a_n \in \mathbb{R} \right\} \)
はベクトル空間である.
少し手間ではありますが,ベクトル空間の定義のすべてのことが
この例で成り立っているということを確かめてみることにしましょう.
<例の確認>
まずは(和に関する性質)と(スカラー倍に関する性質)を確認します.
では続けて,(和とスカラー倍に関する条件)
を証明していきます.
以上より例は確認できた□
実際のところはこのように確認することは多くないですが,
今回は実際にベクトル空間はこの10個を確認できればいいよという例として挙げました.
この例には\( \mathbb{R} \)の数から成り立っているという意味を込めて
特別に数ベクトル空間 という名前がついています.
また\( \mathbb{R}^n \)と同様に\( \mathbb{C}^n\)を複素ベクトル空間といいます.
このことも上の例と同様にして考えれば示せますが,ほとんど同じ議論なので今回は省略します.
以上が「ベクトル空間とは?」という話です.
ベクトルを幾何的に矢印で考えていたところからさらに大きい我々が想像できない
次元についてのベクトルまで定義できるようになりました.
このベクトル空間を用いて今後様々な議論が展開されていきますので,ぜひどんなものであるのかおさえておきましょう!
それではまとめに入ります!
「ベクトル空間とは?」まとめ
「ベクトル空間とは?」まとめ
・ベクトル空間とは,(和に関する性質)と(スカラー倍に関する性質)と
8つの(和とスカラー倍に関する条件)から成り立っている